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第30回 子供が教えてくれる「自己重要感」と「モチベーション」
■「問題より機会に、弱みより強みに焦点を」
我が家の長男が今年の4月から小学生になりました。
それもあってか、特に最近、「自分で行ってみたい」「1人でやってみたい」とよく言うようになりました。
実際は、まだまだ落ち着きがなく、注意散漫で危なっかしいので「だめだめ、一緒に行かないと危ないよ」と言いながら付いていっては、横断歩道でもモタモタ歩いたり、人とぶつかったり・・・。「ほら、だから危ないっていったでしょ」と叱ってしまうこともしばしばです。
しかし、息子は、それでも「1人でいきたい」「やりたい」と主張します。
根負けして、親としても思い切って、「そこまで言うなら、今日からは1人で行ってみな」「○○まで1人で行って用事をすませてきて」と行かせてみると、意外なほどにしっかり集中して歩き、きちんと用事もすませてきます。
その姿を見て、子供の力を信頼して思い切って任せてみることが、能力をさらに引き上げていくのだな、と実感します。
そこで、ドラッカーのこの言葉を思い出し、仕事にも活かせる原則だということに気づきました。
「強みに焦点を合わせることは、成果を要求することである。『何ができるか』を最初に問わなければ、真に貢献できるものよりも、はるかに低い水準に甘んじざるをえない。」
(「プロフェッショナルの条件」より)
仕事の現場でも、ついつい部下の弱みや、問題点に焦点をあてて、その弱みや問題点が起きないように管理(コントロール)しようとしがちです。
しかし、これは本人の「仕事に対する水準を下げる」結果につながります。
言い方は悪いですが、「これだけやっていれば文句はないでしょう(怒られないでしょう)」というスタンスになりやすく、本当の主体性や創造性が発揮されにくい状況になります。
逆に、「強み」「できること」の方に焦点をあてて、それを認めてあげることで、ますます「自分はもっとできる、もっと伸びて結果を出そう」と考えるものです。
上記のとおり、私の息子の例でも、弱点や問題が起きないように、慎重にコントロールしすぎると、かえって子供はその水準以上に伸びようとせず、逆に強みや機会(できること)に焦点をあてて信頼することで、ぐっと成果が上がるというのは、仕事でも家庭のマネジメントでも全く一緒のようです。
■社員は、「自己重要感」を求めている
私は、マネージャー向けの研修などの場で、必ず聞く質問が二つあります。
一つ目は、「マネジメントとは何だと思いますか?」という問い。
二つ目は、「これまで所属した組織やチームで最も働きがいがあった最高のチームとその理由は?」という問いです。
これまで200社以上のマネージャーの方々にこの質問をしてきました。
一つ目の問いについては、人によって千差万別の答えがかえってきます。ここはマネジメントの体系を学ぶ前は定義があいまいなのはしかたがありません。
一方、意外なことに、二つ目の問いの「その組織で最も働きがいを感じた理由」は、下記のとおり3点にほぼ共通して集約されます。
【1】全体の目的共有がなされていること
【2】個人が自分自身の貢献を実感できること
【3】縦・横の連携と協力体制が円滑なこと
詳細に図示したものが、下記になります。
(拙著「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」第6章より抜粋)
中でも、特に皆さんが「聞かれるまでは意識しなかったけど、これがあったのだな」と振り返るのが、真ん中にある「個々人がその組織における自身の貢献を実感できる」「自分の強みが理解されていて、頼られている」という点です。
これが「自己重要感」です。
たとえ目的や目標値を共有していても、また組織内での横の連携やコミュニケーションが円滑でも「何かが足りない、なぜかモチベーションが高まりにくい」ということがあります。
そのときに欠けているのは、若手であれベテランであれ、(スキルや知識レベルの差はあっても)「自分がその組織にいることで、どんな貢献ができているか、どんなことで頼りにされているか」という点です。
多くのマネージャーが「以前のあの組織ではすごく働きがいを感じた」という組織には必ず、「君のこういう能力が、このチームにとってはすごく大事だ」「君のやってくれたこの仕事が、お客さんへの提案ですごく喜んでもらえた」など、「個の貢献」にフォーカスして話してくれる上司や同僚がいたと言います。
■「自己重要感」から「さらに貢献したい」というモチベーションへ
ドラッカーは、こんなことも言っています。
「実際に仕事をしている人間こそが、何が生産性を高め、役に立ち、邪魔になるかを最もよく知っている。従って、知識をもち、技能をもつ者本人に対して責任を与えることが必要である。」
(「乱気流時代の経営」より)
自分の力を信じてもらい、裁量が与えられ、組織において明確な貢献ができる、頼られていると感じることで、「自己重要感」は高まります。
多くのマネージャーが「比較的小規模のプロジェクトやチーム」を最も働きがいのあった組織としてあげるのですが、そこにはやはり「(小さいからこそ)自分の貢献や責任が明確」であるという理由があるようです。
「自己重要感」は、その組織に自分がなぜいるのか、という「自分の存在意義」につながっていきます。
「存在意義」がぐらぐらしていては、いくら自発性やモチベーションという「動力」を高めようとしてもうまくいきません。
「あなたがなぜ、この組織において大切な存在か」ということが伝わるようなコミュニケーションを繰り返すことで、メンバーは「自分の能力を理解して信頼してくれている。より大きな責任と貢献を果たしたい。」という方向に動いていくはずです。
一時的な会話だけではなく、根気よく、継続して「自己重要感」を高めていく事で、きっとメンバーの大きな成長と仕事の成果を実感できると思います。
小学1年生の息子の行動から、「人の強みを信じ、活かす」ことで「自己重要感」が高まり成果にもつながりやすいという原則を書かせていただきました。
コストは全くかからないですが、効果は間違いなくあります。ぜひ、皆さんの職場でも試してみてください。
【書籍のご案内】
いつもコラムをお読みいただき、ありがとうございます。
本コラムにも紹介されているような、マネジメントという仕事を創造的なものにするための「原則」をまとめた書籍を出版いたしました。
「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
藤田 勝利 著
「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(amazon.co.jp Webサイト)
実話を基にした7つの「ケース」を使って、マネージャーに役立つ考え方を説明しています。
会社経営をされている方、事業部・部・課などを任された方、新規事業のチームを率いる方、開発や制作のプロジェクトマネージャーの方など、「組織やチームのマネジメント」を担っていく方に是非お読み頂きたいと思います。
次回は6月5日(木)の更新予定です。
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