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第3回 譲渡担保という担保
譲渡担保とは、財産の所有権を、担保権者に移転しつつ、債務者がその財産で使用収益できる形の担保の方法です。債務を返済したら、その所有権は元に戻ります。
例えば、運輸業のトラック。運輸業のA社は、自社で所有していたトラック40台を、ノンバンクのB社に譲渡し、1台50万円の評価、40台合計2,000万円、B社から借りました。
しかしB社にトラックそのものを引き渡したらA社は運輸の仕事ができません。A社はB社からトラックを賃借し、賃借料を毎月、B社に支払っていきます。
例えば、売掛金。卸売業のC社は、継続的な販売先に対しての売掛金を金融機関D社に対して譲渡担保として差し出しました。毎月毎月の販売先をまとめると、売掛金は常に5,000万円以上存在するのですが、それを担保に3,000万円の融資をC社はD社から受けました。
あなたは、通常であれば担保は、不動産担保や預金担保、有価証券担保を思いつくのではないでしょうか。
無担保ではなかなか融資が受けられず、だからといって担保となるような不動産や有価証券もない企業が、次の一手として考えられるのが、このような譲渡担保です。
譲渡担保となるものは、機械や車両、商品などの動産や、売掛金などの債権があります。
ちなみに動産とは、不動産以外の物を言います。民法86条で、動産とは、有体物のうち、不動産(原則として土地及びその定着物で建物を含む)以外の物、と定義されています。
動産では、引き渡しが対抗要件、つまりその動産を占有すれば、その動産の所有者であると主張することができます。
ただし、動産を譲渡担保とするために、その動産の引き渡しを金融機関に行うと元の所有者は、その動産を使用することができなくなります。
例えば上記、運輸業A社は、ノンバンクB社にトラックの引き渡しを行うと、そのトラックが使用できなくなります。
そこで、動産譲渡登記、という制度があります。
動産を譲渡担保として差し出して融資を受けたい、しかしその動産を引渡すと仕事ができなくなる。そのため動産譲渡登記を行って担保を金融機関に差し出すことによって、融資を受けるようにします。
動産であれば動産譲渡登記という方法があるように、売掛金を担保に融資を受けたく、売掛金を譲渡担保として金融機関に差し出したいのであれば、債権譲渡登記という方法を使うことができます。
そもそも売掛金のような債権の譲渡は、担保として譲渡された譲受人、例えば売掛金を担保に融資を出そうとする金融機関が、その売掛金を譲り受けたよ、という主張を売掛金の債務者や、第三者に主張するには、売掛金の債務者への通知もしくは売掛金の債務者からの承諾を得る必要があります。
しかし考えてみてください。上記、卸売業のC社の売掛金の債務者、つまりC社の販売先に対し、金融機関D社から、C社からD社へ売掛金が譲渡されたという通知がいったら、その販売先はどう思うでしょうか。その販売先から、C社は資金繰りに困っているのではないか、とも思われかねません。
そこで債権譲渡登記という、販売先に通知がいかなくても売掛金を担保として譲渡したよという登記ができる制度が使われるのです。
このように、譲渡担保という方法は、無担保では金融機関から融資が受けられず、だからといって不動産や有価証券のような通常、担保として使われるものもない、そのような企業が次の手として考えられる担保の方法です。
機械や車両、商品のような動産、そして売掛金のような債権が、譲渡担保として担保となります。
ただ、考えてみてください。担保というのは、融資を出す金融機関が、もし万が一貸し倒れとなった場合、その担保を売却して換金して、貸し倒れの一部に充てるために設定するものです。
ということは、担保は換金しやすいものが好まれる、ということになります。
不動産は、売却して換金しやすいものです。有価証券も同じです。
ただし機械や車両、商品はどうでしょうか。古い機械や車両は二束三文にしかならないし、倒産した会社に在庫としてあった商品も、高値で売れないでしょう。
また売掛金も同じです。もし融資が貸し倒れとなった場合、金融機関は売掛先から本当に回収できるのか。
そのため、銀行や信用金庫は、動産を担保にした融資や、売掛金を担保にした融資はやりたがらないのが実情です。
そこで出てくるのが、動産担保や売掛金担保を専門としたノンバンクです。
そのようなところは、銀行や信用金庫と違い、動産を換金する、売掛金を回収するノウハウが豊富です。
金利は銀行や信用金庫と比べて高いですが、そのような専門ノンバンクで動産や売掛金を担保にした融資を受けるのが、現実的な対応としては多くなります。
次回は12月17日(火)更新予定です。
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